多田消化器内視鏡クリニック

2019.07.08

疾患紹介編:#2 食道裂孔ヘルニア
第二回は私の専門であるピロリ菌について書くつもりでいましたが、この2カ月でたくさんの方から質問いただいたので、予定を変更し、食道裂孔ヘルニアを先に取り上げることにしました!

この病気を理解するためには、「食道裂孔」と「ヘルニア」に分けて考える必要があります。
飲み込んだ食べ物はまず胸の中(胸腔:きょうくう)の食道を通り、お腹の中(腹腔:ふくくう)の胃に到達します。胸腔と腹腔は横隔膜という膜(筋肉組織)で隔てられており、食道が横隔膜を貫く穴を食道裂孔と呼びます。(下図1)
ヘルニアとは、体内の臓器が、あるべき部位から逸脱した状態の事を言います。語源は「脱出」を意味するラテン語のhermiaです。

食道裂孔ヘルニアとは、横隔膜の下、腹腔内にある胃の入口の一部が横隔膜の上に滑り出した状態のことをいいます。
食道裂孔ヘルニアは、図のような3つのタイプに分類されます(下図2)。
食道胃接合部(噴門部(ふんもんぶ))が胸部側へ移動してヘルニアを起こす場合には滑脱(かつだつ)型と呼ばれ、食道裂孔ヘルニアで最も多く見られます。

原因はほとんどが腹圧の慢性的上昇であり、肥満、妊娠のほか、喫煙、腹水や、喘息、慢性気管支炎など頻繁に咳が出る病気、骨粗鬆症により背中が曲がることなどがあります。また加齢により横隔膜の穴が広がりやすくなってしまうことでも生じます。生まれつき横隔膜の穴がゆるく、食道裂孔ヘルニアが起こりやすい方もいらっしゃいます。

<症状>
食道裂孔ヘルニアとは食道と胃の構造の変化があるということだけであり、ヘルニアが存在するだけでは症状はほぼありません。
疲労やストレスなどにより胃酸過多となった場合や、暴飲暴食、食後すぐの臥位(横になること)などによる食道側への胃内容物逆流量の増加などにより、さまざまな症状が起こり、それらは胃食道逆流症(GERD)・逆流性食道炎と呼ばれます。
代表的な症状は胃酸の刺激による胸焼け、胸痛、胸のつかえ感であり、胸の痛みは時にとても強く、狭心症など心臓病と間違われることすらあります。また、夜間就寝時に逆流が起こると、慢性の咳嗽(がいそう/咳)やのどの違和感の原因となることもあります。

<検査>
内視鏡検査:
食道側からと胃側からの両方から、胃粘膜の状態を確認します(下図3)。
食道胃接合部の位置の直接的な確認、食道裂孔のたるみの有無・程度の確認ができます。また、合併することの多い逆流性食道炎の診断なども同時に行います。

<治療>
前述の通り、「食道裂孔ヘルニア=有症状」ではないので、症状がない場合には治療をせずに経過観察をします。
胸やけなどの症状を伴う方には、生活習慣の改善を指導したり、胃酸を抑える薬を処方したりします。それでも、改善が見られない重症の場合は手術療法を選択することもあります。

生活習慣の改善
胃酸が食道に逆流してしまう場合は、食事の量を抑えたり、脂質や肉を食べ過ぎたりしないように気をつけます。飲酒や喫煙を控えるのも重要です。
胃酸の出過ぎを抑え、肥満を解消するための食事として低脂肪食が推奨されています。
その他にも、食後すぐに横にならない、ベルトやコルセットで腹部を締め付け過ぎないなど、生活習慣の改善により、症状が和らぐこともあります。
妊娠中は胃が圧迫されるので、お腹に圧力がかかるような姿勢をとらないようにするなど、注意が必要です。

薬物療法
胸やけなどの症状がある場合は、胃酸の出過ぎを抑える薬などを服用します。

手術療法
ヘルニアがひどすぎ、投薬による治療で改善が見られない場合は、横隔膜の緩みを修復し、胃から食道への逆流を改善するための手術をすることがあります。
以前は開腹手術や開胸手術が行われていましたが、近年、腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)の技術が向上したため、患者さんへの負担が少なく、手術創が小さくて済む、腹腔鏡を使用した手術が広く普及してきています。


食道裂孔ヘルニアが原因で引き起こされる「胃食道逆流症(GERD)・逆流性食道炎」では胸やけ以外にも、「のどの詰まり感」や「原因不明の咳」などが引き起こされることがあります。耳鼻咽喉科や呼吸器内科で相談・投薬を受けても改善が無いという方は、一度、胃カメラを受けてみることをお勧めします。