多田消化器内視鏡クリニック

2020.08.10

内視鏡検査の「麻酔」について解説します!
当院では、胃カメラ・大腸カメラを少しでも楽に受けて頂くために、希望者には「麻酔」を使用して検査を行っています。
「麻酔」と聞いて、皆さんが想像されるのはどのようなものでしょうか?
ドラマでよく出てくる手術室でするような「麻酔」?
それとも、歯医者さんで治療を受ける際に施される注射の「麻酔」?

一概に「麻酔」といっても、様々な手法があります。

今回は当院で用いている「麻酔」の方法や薬剤、その効果と副作用・リスクについて説明していきます。


まず、麻酔はその作用範囲に応じて、「全身麻酔」と「局所麻酔」に2分されます。
「全身麻酔」
  意識が無くなります。
      投与法により更に「吸入麻酔」と「静脈麻酔」に分類されます。
「局所麻酔」
  鎮痛が必要な部位に対してのみ施行する麻酔で、意識は保たれます。
      投与法により「表面麻酔」「浸潤麻酔」「伝達麻酔」「脊髄くも膜下麻酔」「硬膜外麻酔」に分類されます。

胃カメラでは、のどや鼻に行う「表面麻酔」(局所麻酔)と注射投与する「静脈麻酔」(全身麻酔)を併用します。
大腸カメラでは注射投与する「静脈麻酔」のみで検査を行います。

皆さんが最も気になさる検査中の意識の有無についてですが、先ほど静脈麻酔(全身麻酔)では意識が無くなると書きましたが、手術の時のように気管に管を入れ人工呼吸器を装着して検査をするわけではありませんので、麻酔が深くなりすぎて呼吸が止まっては困ります。

内視鏡検査時はRamsayスコア3-4(下図1)の意識下鎮静(大声で名前を呼んだり体をゆすると、「うぅーん、はぃ・・・」ぐらいの返事が出来る程度)が最適とされており、当院でもこれを目安に投与量を加減しています。

ただ、お酒が強い方や睡眠薬・安定剤を常用されている方は麻酔が効きにくい傾向にあります。使用する薬の種類や量を工夫しても十分な麻酔効果が得られない事もありますがご容赦ください。


当院では静脈麻酔に以下の薬剤を、患者様の年齢・体格・背景(嗜好、服薬歴、既往歴)などの情報をもとに使い分けています。

ミダゾラム
当院の麻酔は基本的にこの薬剤を用います。年齢や体格に応じて2-3mg投与で検査を開始し、効果・反応をみながら、不十分と判断されたら適宜追加しています。クリニックという事もあり、上限は5mgとしています。
この薬の良いところは、半減期が短く、検査後に麻酔が残りにくいという点と、逆行性健忘効果があり、もし検査中に痛みを感じたとしても検査が終わった頃にはそれを忘れてしまっているという点です。特に後者が優れ物で、検査中は「痛いよ、これって麻酔効いてる?」と訴えていた方が、検査後に「すごく楽だった」とおっしゃることが良くあります。内視鏡医にとっては非常にありがたいお薬です。ただ、検査後の結果説明も忘れてしまう事があるというのは欠点になるのですが・・・。

ジアゼパム
お酒が強い人は麻酔が効きにくいのは前述のとおりです。大酒家の人にミダゾラムを使用すると、効きにくいだけでなく、脱抑制が生じ検査中に無意識で暴れるという危険も伴います。
ジアゼパムはアルコール中毒患者の離脱症状を鎮めるために使用される薬剤であり、僕の経験上、大酒家でも安全に使用でき、眠りは浅くとも緊張や不安を和らげる効果で、楽に検査を受けていただけます。
問診で酒量が多い人や、過去の検査で麻酔が効きにくかったとおっしゃる方にはこの薬を選びます。5-10mgを用います。
半減期が長く、検査後も麻酔効果が残りやすい点と、投与により血管痛・血管炎を起こす事がある点が欠点です。

ペンタゾシン
寝かせる麻酔ではなく、痛み・苦しみを感じにくくさせる鎮痛剤です。
眠りはしなくても軽度の鎮静効果はあり、胃カメラでは嘔吐反射や胃を空気で膨らませることにより生じる腹満感を軽減でき、大腸カメラでは腸壁伸展に伴う腹痛を軽減する事が出来るため、検査が楽に受けれます。
睡眠薬・安定剤を多用している人でも効果が得られるため、そのような方の検査で選択します。7.5-15mgを投与します。
また、ミダゾラムやジアゼパムとは作用機序がことなるため、これらの薬だけでは十分な鎮静が得られない場合はペンタゾシンを併用する事もあります。ただ、併用により過鎮静に陥る事もあり、十分な注意は必要です。


麻酔の効果は人それぞれです。

私自身、これまでに胃カメラは5-6回、大腸カメラは2回受けた事がありますが、麻酔なしで胃カメラを受けた時は、しんどすぎて涙が止まりませんでした。
その後、ミダゾラムを使った胃カメラを受けた時は、ゲーゲー言いながらも、どこか遠くの世界の出来ごとの様な感じで、終わった後もしんどかったという感覚は残りませんでした(完全に眠る事はできなかった・・・)。
大腸カメラではペンタゾシンを使ってもらい検査を受けました。意識はあり、カメラがおなかの中を動く感じもわかりましたが、痛みは感じずに終了しました。ただ、検査が終わって立ち上がると、酔っ払ったように目の前がグラグラする感じがあり、歩行には注意が必要なレベルでした。

当院で検査を受けられた患者様の反応・感想も様々で、「先生が麻酔を入れるよって言ったかと思ったら、次に気がついたのは休憩室のソファの上だった!こんなに楽なら何度でも受けれるよ」とおっしゃって下さる方や、検査中はゲーゲーと嘔吐反射がきつく、麻酔がうまく効いてないなとこちらが落胆したにも関わらず、検査後の診察では「なんにも覚えてないよ」とおっしゃる方もおられます。
一方で、検査の最後まで目がパッチリで、「なんか麻酔が効かなかったなー」と残念がられる方もたまにいらっしゃいます。そのような場合は、使用した薬や量、効き具合をカルテに記録し、次回以降の検査では更なる工夫を行うように心がけています。


麻酔をうまく使うと、苦しいはずの検査がそうでは無くなり、楽に受けれるというのは非常に有意義なことです。私も麻酔なしでの検査は受けたくありません。

しかし、麻酔使用には良い事だけではなく危険もあるという事は知っておいてください。
マイケル・ジャクソンが、不眠治療のために使用した麻酔の量が多すぎて呼吸が止まり亡くなったことは有名な話です。

2016年に内視鏡学会から出された報告によると、前処置に関連した偶発症は472例(0.0028%)で、そのうち鎮静・鎮痛薬に関連した偶発症の頻度は46.4%(219/472)で死亡数は9例中4例(44.4%)を占めていました。鎮静に関連する偶発症の頻度を総検査数(17,087,111件)で換算すると0.0028%,死亡の頻度は0.00005%となります。(下図2)

総数としては多いものではありませんが、内視鏡関連偶発症の半分が麻酔がらみだということは押さえておかなければいけないポイントです。
実際の症状としては、呼吸抑制、血圧低下、嘔気、転倒などが報告されています。

幸い、私自身は大きな事故に遭遇することは無くここまでやってこれましたが、それでもヒヤッとすることは何度かありました。

当院では、院長の豊富な麻酔使用経験に加え、患者様の状態を把握するための生体モニターを検査室だけでなくリカバリー室にも用意し、必ず誰かの目があるように看護師の人数も十分に配置しています。
また、万が一に備え、麻酔拮抗薬を常備し、酸素マスクや蘇生セットも直ぐに使用できるように配備しています。


私は、がんから命を守るためには定期的な胃腸検診が重要であると考えていますが、そのために「苦しい」検査を我慢して受けなさいとは思っていません。
私自身の検査体験からも、むしろ検査とは、体の異常を少しでも早く見つけるために、躊躇なく受けられる「苦しくない」もので有るべきだと思っています。

当院では、患者様の安全に最大限の注意を払いながら、少しでも苦痛を減らすべく、積極的に麻酔を使用しています。
過去の検査で苦しい痛い思いをされた方や、検査を受けることに不安の強い方は、どうぞ当院へご相談にいらしてください。

ただし、麻酔使用後は酔っ払ったような状態になるため、帰りは自転車を含め乗り物は運転できません。公共交通機関を使用くださるか、送迎を依頼するなどして来院くださるようにご注意ください。